「一人ひとりが自分の得手不得手を包み隠さずハッキリ表現する。石は石でいいんですよ。ダイヤはダイヤでいいんです。そして、監督者は部下の得意なものを早くつかんで伸ばしてやる。適材適所を配慮してやる。そうなりゃ、石もダイヤも本当の宝になるよ。」
本田宗一郎さんの言葉です。
高畠導宏さんという伝説の打撃コーチをご存じですか。
彼は、約30年の間に7つの球団をわたり歩き、独特の打撃理論と卓抜した洞察力を駆使して数多くのプロ野球選手を指導しました。延べ30人以上のタイトルホルダーが育っていきました。
体格的に恵まれない選手には、「同じ2割5分のバッターでも、チームにとって不可欠なかつ相手にとって嫌がられるバッターになろう」と励まします。
そして打球をひたすらファールグラウンドに転がす練習をさせました。来る日も来る日もです。球を引きつけて、さらに引きつけて最後の最後にちょこんとバットを出してファールにする。
この練習は、ファールにする技術のみならず、球を最後まで見極める眼を知らず知らずのうちに養っていたのです。
おかげでこの選手はツーストライクに追い込まれても、余裕を持って打席に立つことができるようになりました。
早稲田大学ラグビー部のエピソードです。
アタック(攻撃)の選手が次々にけがをしてしまい、ついにはアタックの苦手な四軍の選手を使わざるを得ない事態になりました。
当時の監督の中竹竜二さんは、その選手にこう言います。
「お前はアタックはしなくていい。とにかくタックルとスイープ(相手選手を掃くように押し退ける行為) だけに集中しろ。この2つ以外はしなくていい。」
これには他の選手から不満が噴出しました。アタックを1人少ない14人でやらなければならないからです。本人もいたたまれなくなり、アタックの練習をしたいと直訴してくる始末です。
それでも、中竹さんは得意のタックルとスイープに磨きをかけるよう説得します。
結局、けが人が復帰してもその選手はレギュラーの座を奪われませんでした。
彼が攻撃ラインに入っても、アタックは絶対にやらないというチーム内の了解があるので、暗黙のうちに彼を飛ばしてパスをする。これがうまい具合にフェイントになります。
ディフェンスで2人がかりで止めなくてはいけないときに、彼なら1人で止めてくれる。ディフェンスに余計な人数をかけないで済むのです。
この2つの例は共に、石を無理矢理ダイヤにしようとはしていません。石を石のまま磨いています。
“長所を伸ばせ”“強みを活かせ”とは、まさにこのことでしょう。